借りぐらしのアリエッティ

さっき見てきたので感想を少しまとめてみます。ネタバレへの配慮は皆無なのでよろしく。


米林宏昌氏の初監督作ということでどんなものだろう、と思っていたけれどジブリ的な雰囲気のあるよくできた作品だった。21世紀以降、宮崎駿以外の手がけた『猫の恩返し』(森田宏幸監督)と『ゲド戦記』(宮崎吾郎)よりも安定した魅力ある作品だったように思う。

特によかったところをいくつか。
色彩、美術、背景。どれも美しいが中でも「水」の描写は圧巻だった。演出家の山本寛も言及していたが、小人の視点での水の粒は表面張力を受けて(専門的なことはよくわからない)か粘り気を持って輝き、涙の粒も雨の粒もとても綺麗。豪雨のシーン、ハーブティ、川面の色と色彩感覚も卓越していて、大きな魅力のひとつだった。
また効果音がすごい。小人が人間の世界に出た時に耳に響く「人間の生活音」。そのリアリティがレイアウトの妙に花を添え、見るものをすうっと『人間の世界に出てきた小人』にしてしまう。またクッキーを潰す音、小人の足音などに至るまで自然な音に聞こえて、よかった。

逆に少し不満だったのは、まず「場面の少なさ」だろうか。
一つの家で閉塞感溢れる暮らしを続けるアリエッティたち、そして病弱で家の敷地外から出ない翔。他のどのジブリ作品よりも冒険の範囲は狭く、ストーリーの淡々とした進行と相俟って若干飽きが来る。もう少し小人視点からの冒険がみたかったな、と思う。
この点についてだが、宮崎駿はこの作品の企画の段階で「鼠とたたかい、ゴキブリや白蟻になやまされつつ、バルサンや殺虫スプレーをかわし、ゴキブリホイホイや硼酸ダンゴの罠をのがれ(以下省略)」と書いてある。そのわくわくする冒険は一体どこにあるんだ!w 喋り方の遅い男の子に見つかった、くらいしか危険もなく、辛うじて出てきたゴキブリはあっという間に逃げていく。ゴキブリはそんなに弱くないぞ!w

あと、もう一点気になるのが「原作からの変更点」である。舞台がイギリスから日本に移ったこと、オチが全然違うことは周知の通りだが、アリエッティたちの一家を取り巻く状況が全然違う。
原作ではアリエッティが外に出られるような格子は存在せず、また外の世界へ続く扉も鍵がかかっていてアリエッティが一人で出ることは出来ない(だったと思う)。一方、今作ではアリエッティは「家にやってきた翔に突然姿を見られるほど」簡単に外の世界へ出たり、単身で翔の部屋に向かってカラスに襲われたりしている。
この作品の重要な要素である『人間と小人の交流』、その入り口となる『初めての借り』に臨むアリエッティの感情はこの設定の変更によって随分薄れてしまったように思ったりする。ストーリー進行上、仕方がないことだとは思うけれど。ジブリらしい「抜け道」や洗濯物干しのボビンなどは見ていて楽しかったし。

脚本は宮崎駿だが、いくつか重要な台詞が引っかかった。生物の絶滅、そのはかなさについて語るシーン(12歳とは思えないw)は少し冗長に感じたし、ラストの「君は、僕の心臓の一部だ」という台詞も…ちょっとなあ。このあと翔君はどうなってしまうのやら…終末ムードを感じます。

蛇足だが、エンディングロールは「崖の上のポニョ」に引き続きスタッフを役職別でなくあいうえお順に並べたもの。二番煎じというのもあるが、前作と比べてこの並べ方にする理由がわからない…。あの時はなんとなーく、作品の余韻にマッチしていてよかったのだけれど。

最後に、「だんごむし」可愛かった。アリエッティの横をむにむにと歩くだんごむしAはあっさりアリエッティにつかまり丸くなり、ぽんぽんと投げられかわいそうなことになるが解放され、やってきただんごむしBと触覚をすりつけあい去っていく…。とにかく可愛かった!ww

とりあえず次回作にも期待。小気味よさ、爽快さは薄かったけれど、まったり楽しめた楽しい94分でした。